たまに、自分の土地の登記にかなり古い抵当権が残ったままになっているけど、それを消したいという相談を受けることがあります。
住宅ローンを返済し終えたけれども、抵当権が付いたままになっているというレベルではなく、昭和の初期やそれ以前の抵当権が残っているようなケースです。
このような抵当権は休眠担保権と呼ぶことがあります。
このような土地でも自宅として使うのには特に支障はないのですが、その土地を売ろうとしたりすると問題が出てきます。
また、自分の子どもの代になるとさらに面倒になるので、自分の代のときに解決したいということで相談に来られるときもあります。
原則として、抵当権は所有者が単独で抹消することができない
登記には、共同申請の原則というのがあり、抵当権の抹消の場合、土地の所有者と抵当権を持っている人が一緒に抵当権抹消の手続を法務局に対して行うことが必要になります。
抵当権を持っている人が個人の場合、かなり昔に登記された抵当権の権利者は既に亡くなっていますが、その場合はその相続人の協力が必要になります。
抵当権を持っている人の子どもが亡くなっている場合には、さらにその相続人の協力を得ることになります。権利者の孫世代、ひ孫世代の人の協力を得ることになることも多いです。そうなると、かなりの数になり、住所も全国に散らばっており、対応に苦慮することが多いです。
所有者が単独で抵当権を抹消する方法
不動産登記法には、例外的に、所有者が単独で抵当権を抹消することができる方法が規定されています。
① 債権証書&弁済証書による抹消(不動産登記法70条4項前段)
この方法は、抵当権が担保している債権を返済した証拠を提出することが必要になります。
返済した証拠があるのであれば、単独でもいいよということなんでしょうが、100年くらい前の借金を返済した証拠が残っているようなことはほとんどないので、この方法は基本的に使えないです。
② 供託による抹消(不動産登記法70条4項後段)
この方法は、元本+利息等を法務局に支払う、供託することになります。昔の抵当権だと、担保している債権の額も100円くらいのことが多く、しかも現在の貨幣価値に直す必要はないため、供託をする費用は余りかかりません。
そうすると、②の方法がよさそうなのですが、問題があり、②の方法は、抵当権の権利者の相続人を調査しても所在が分からなかった場合でないと利用することができません。
逆にいえば、相続人が判明していて、一部の方から協力が得られないというケースでは利用することができません。
登記には抵当権者の住所が載っていますが、住所と本籍が一致するケースは戸籍が残っていて、相続人を調査できる場合も割とありますので、そのようなケースは②の方法は利用するのは難しいです。
最終的には抵当権の抹消の裁判をする
抵当権の権利者の相続人が判明していて、その一部でも協力をしていただけない方がいる場合には、抵当権抹消の裁判をすることになります。
古い抵当権が担保している債権の時効期間は過ぎていることが通常なので、消滅時効を主張すれば、抵当権の抹消は認められるのが普通です。
抵当権者が法人で解散している場合の特例
上記は抵当権を持っているのが法人ではなく、個人であることを念頭に置いて解説しましたが、抵当権を持っているのが法人で、かつ、その法人が解散をしている場合には、別の特例(不動産登記法70条の2)があります。
解散した法人の担保権に関する登記の抹消制度
次の条件を満たす場合には、不動産の所有者が単独で抵当権を抹消することができます。
① 抵当権を持っていたのが法人が解散していること
② 清算人の所在が分からないこと
③ 弁済期から30年を経過していること
④ 法人の解散から30年を経過していること
上記の制度は、令和5年4月からできるようになった制度です。