元農水事務次官の殺人事件についての雑感

著者:永井敦史税理士事務所・永井敦史法律事務所

元農水事務次官の殺人事件についての雑感

執行猶予は現在の量刑相場では難しい

元農林水産省の事務次官まで務めた人が殺人を犯したということで世間の注目を集めた事件の判決が言い渡されました。

判決は懲役6年。

この事件が発生して報道されたころから、弁護士としての経験上、執行猶予をつけるのは難しい事件だと思っていました。

殺人罪は、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と規定しています。

他方、執行猶予は、3年以下でなければつけることができません。

そうすると、そもそも殺人罪では執行猶予をつけることができないように思えます。

しかし、刑法に「酌量減刑」というのがあり、これを適用すると、刑の下限を半分まで下げることができます。

殺人罪の場合、2年6月まで下げられます。

つまり、殺人罪で、酌量減刑を適用して、言い渡す刑が2年6月~3年の間に収まっていれば、執行猶予が付く可能性はあります。

ただ、殺人罪が5年以上の懲役としている以上、殺人罪は原則として実刑であると法は考えているということになります。

その中で、なお、執行猶予を付すというのは、例外中の例外ということになるので、法律家の感覚ではかなりハードルが高いです。

よい条件が全て揃って、かろうじて、という感じです。

そうなってくると、凶器を使って、何か所も刺したとなると、殺し方の残忍性がある方向の事情になります。執行猶予を付すという観点ではかなりのマイナスの事情です。

懲役6年というのが重いという評価はありえるかもしれませんが、執行猶予が付かなかったのは、今の裁判の量刑相場を念頭に置くと致し方ないという感じがします。

じゃあどうすればよかったのか?

介護で疲れ果てて、咄嗟に殴って殺してしまったといった事件が起きるたびに他人事ではないと言われます。

じゃあ、どうすればよかったのか? という話になります。

警察や福祉機関などに相談すればよかったというのも、この手の事件が起きると常に言われることです。

ただ、相談して何ができるのかと言われると、発達障害などが根本的に治るわけではなく、心許ない面は否定できません。

精神障害を抱えている人一般が危険だというのは、誤った認識ですが、ごく一部ですが攻撃性が強い人がいるのも、また事実です。

人間は本能的に自分より強いものを恐れますので、家庭内の立場の弱い人に攻撃性が向けられることがあります。

そうなると、家族はどうしたらよいのかという八方ふさがりの心境に陥ってしまいます。

私は、少し前になりますが、攻撃性が強い精神障害の方の弁護を担当したことがあり、家族からも話を聞きました。家族の苦悩は大きいです。

このような経験があると、似たような事件が起きたときに、じゃあ、どうすればよかったのか?との問いに、色々相談すればよかったのではないかとは軽々しく答えることはできません。

非常に難しい。

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